2013-08-03

チャウシェスクの子どもたち 育児環境と発達障害

日経サイエンス2013年8月号の「チャウシェスクの子どもたち 育児環境と発達障害」という記事を読んだが、この中で発達障害という表現が使われるのは好ましく無いと思う。

"チャウシェスクの子どもたち"というのは、独裁者チャウシェスクの人口増加政策によって生まれたルーマニアの孤児たちのことを言う。1989年には17万人以上の子供達が国営の施設で暮らしたらしい。人生最初の2年間を施設で暮らした子は、里子となった子あるいは施設に入ったことの無い子と比べて、知能指数が低く、脳の活動が鈍いということが書かれている。

書かれていることはとても参考になるものだが、タイトルだけでなく、文書中にも1カ所だけ「発達障害」と表現している部分があるのが気になる。育て方と発達障害には関係が無いことは現代の常識だが、この副タイトルでは良く知らない読者に誤った知識を与えるのではないかと心配になる。

念のため、原文に「発達障害」という単語が使われているかどうかを確認してみた。

原文と思わしき文章では、タイトルは次のようになっていた。
 "CHILD DEVELOPMENT  Anguish of the Abandoned Child"

普通に訳せば次のような感じだと思う。
 "児童の発達  見捨てられた子の苦しみ"

どこにも発達障害という単語は無い。

本文では、92ページの右側の段の三つ目のパラグラフに次のようにある。
 "ボグダンは遅れを素早く取り戻し、軽い発達障害を数ヶ月で克服した。"

これに該当する部分には英文では次のように書かれていた。
 "Bogdan started to catch up quickly and managed to overcome mild developmental delays within months."


英文では developmental delays と記されているに過ぎない。これは発達遅延であって、発達障害ではない。